戦略作成では、まず譲れない部分を明確にする事

市場、状況に関わらず、どのビジネスにも複数の戦略方向のオプションが存在するものです。企業のリーダーにとって、自分のビジョンをちゃんと説明せずとも、自分のチームがそれに沿った戦略方向性を提示してくれることができれば最高ですね。

しかし、そのようなことが自然と起こる事は実際にはまずありません。

最適な戦略が一つしか存在しないなどということはないのです。そこで自分のビジネスにおける優先順位をもとに理想的な戦略方向を選択するのは、リーダーの役目です。

「 チームには、戦略開発に自分たちも参加していることを感じてもらいから、私のビジョンを説明し強制するような事はしたくない。そんな事をすれば、彼らは責任を感じずやる気も減ってしまうと思う。」といった事を、何人かのビジネスリーダーから聞いたことがあります。彼らはつまり、「君の意見など聞く気はない。」と言ってのけるような独裁者上司だと思われたくないのです。

このような心配に意味があることなど殆どありません。戦略開発に協力することを依頼する前にまず自分が求めていることを説明したからと言って、それがチームをないがしろにしているということにはならないのです。逆にそれを達成するための助けをチームにお願いしているのですから。

戦略開発の際には必ず、まずその出発点を明確にしましょう。絶対に譲歩できないものは何ですか。そしてチームの助けを得ながら変えていきたいものは何でしょうか。ここで大切なのは、その目的が有効であるかどうかではなく、ある目的を達成するために変更するべき事について話し合うのだということを明言することです。

私のクライアントである某CEOは、譲れない事項として、戦略に沿わない商品ラインの取り扱い中止を決定しました。そのアイディアに反対するマネージャーもいましたが、CEOはその決定を翻すことはなく、 その実行方法についての助けをマネージャー達に求めました。つまり、その時点で既に商品ラインの取扱を中止するかどうかという事は決定事項となっていた訳です。また他のあるCEOは、 単に顧客からの注文を待つ営業ではなく、もっと積極的にビジネス開発を行うことを要求しました。そしてそれを可能にする能力を伸ばし、営業、マーケティングなどのプロセスを変更することに関する助けをチームに求めたのです。

だからといって、ビジネスのビジョンを開発したり、ハイレベルにおける戦略目的を定義する際に、チームの関与を求めてはいけない、という訳ではありません。あなたが望むのであればそうしてもいいですし、実際多くのリーダー達も実際に行なっている事です。しかし、ビジョンを自分だけで決定することにも何の問題もありません 。

それはリーダーの特権なのです。

ビジネスの現状や機会を鑑みれば、特にビジョンの説明をしなくとも、チームもあなたと同じ結論に行き着くはずだと期待するのは、非現実的と言えます。さらに大切なのは、自分には譲れない部分があるにも関わらず、単にチームに戦略ビジョンに関わってもらっている気分になってもらうためにその作成を依頼しているふりをする事は不誠実だということです。

そういうことをすると、必ず後で痛い目を見るものです。戦略作成依頼を受ける以前から、実はあなたによる決定済みの事項があったなどと後から知れば、チームの面々はバカにされたかのように思うでしょう。更に、自分達の時間と努力が無駄にされた、あなたの上っ面しか見えていなかった、かなりちっぽけな存在と見られていた、などと感じるかもしれません。

戦略開発においては、どのようにチームに関わってもらいたい場合でも、常に正直であるのが重要です。

リーダーとしての特権を使えば彼らのやる気を削いでしまうかもしれない、などと心配する必要はない。 Click To Tweet

最初に絶対譲れない事ははっきりさせ、その理由も説明しましょう。例え彼らが「自分であれば違った結論にたどり着く」と感じていたとしても、まずあなたの根拠も理解してもらい、そこで初めて彼らの助けを求めて下さい。

自分の下のマネージャーを尊敬し、その助けを求めてくるような正直なリーダーほど、スタッフをやる気にさせる人はいないのです。


日本市場参入について

先週のことですが、英国デイリー・テレグラフ紙のレポーターから、私の日本市場参入の際の大変さについての考えを聞かせて欲しいと連絡を受けました。

私は日本への市場参入について、このような意見を持っています。

  1. コミュニケーションが上手な人であれば、言語は壁にならない。 国際コミュニケーションに長けているとは、たとえ共通の言語を話さない相手のことも理解できるということです。たとえ英語を話す人同士でも、意味を取り違えたり、勝手に理解したつもりになることはしばしばあるものです。本当に相手の言うことを理解したかどうかを確認するために質問したり、自分の意図するところをわかってもらうために例を挙げたりしましょう。たとえ日本でも、もし相手が言わんとすることが不明確な場合、説明をお願いすることは決して失礼にはあたりません。不明確なままにしておくのは良くありません。
  2. 日本でもどこでも、成功するためには市場検証は不可欠である。念入りに行うこと。 出回っている一般のレポートや、ジェトロ、業界促進団体などからのアドバイスを当てにしてはいけません。日本市場のエキスパートと言われている人々のの予想も鵜呑みにせず、疑ってかかりましょう。たとえ市場検証が専門の会社を雇った場合でも、同時に自分達でも同時に検証を行うことをお勧めします。潜在顧客に会って質問をし、自分の仮定事項を検証して下さい。あなたのビジネスのことを一番よく分かっているのは、あなた自身なのですから。
  3. 国にかかわらず、ビジネスが成功するためには最高のリーダーが存在することが必須である。 業界にコネのある日本人、というだけでは不十分です。従来の考えでは、業界経験が豊富でコネもある年配の日本人男性がリーダーとして相応しいと言われてきました。しかしこのアプローチが上手くいったケースは、一件も知りません。業界経験があるからといって、ビジネス上の洞察力やリーダーシップ能力があるとは限りません。顔の広さが自分の一番の武器だと考えているような人はしばしば、自分の知り合いに不利になるかもしれないようなことをビジネスのために行わなければならなくなった場合、しばしば躊躇してしまいます。つまり、自分の知り合いをビジネスより大事にしてしまうのです。
  4. 日本人に日本についての説明を受けたとしても、それがいつも正しいとは限らない。 日本人だからといって、日本におけるビジネスのエキスパートというわけではありません。そのような人たちからのアドバイスは、かなり割り引いて聞いた方が良いでしょう。日本人からのアドバイスをもし鵜呑みにしていれば、セブンイレブン、コストコ、ユニクロ、未シェラン、BMW、アディダス、ゴディバといった会社が日本市場に参入することはなかったでしょうし、まして日本で大成功を収めることもなかった筈です。
  5. 顧客の要求が高いのは日本では当たり前であり、また、資産でもある。 アディダスやミシェランは日本市場のための商品を開発しましたが、その品質が高かったため、結局世界中で販売することに成功しました。これはあなたにもできることです。
  6. 本国でのブランド力が海外でも通用するとは限らない。 あなたのビジネスが日本国外でいくら有名であっても、日本市場でのブランド開発にも投資をする準備をしておきましょう。
  7. 価値とは世界共通のもので、それは日本でも同じである。 画期的技術や素晴らしいサービスを兼ね備えた製品があれば、日本でもそれ以外の国でも成功するでしょう。フランスの会社であるミシェランは、最高級のタイヤを日本の自動車やトラックの製造会社、そして日本航空の飛行機用にも供給しています。
  8. 日本で最も成功しているビジネスは、システムに合わせるのではなく、それに抵抗しており、誰でもそうするべきである。 日本企業であるファーストリテイリング社は、日本の被服産業を根本から翻しました。ソフトバンクは一般消費者向けの電気通信サービスの定義を覆しました。現在ではセブン&アイ・ホールディングスとなったイトーヨーカドーは、セブンイレブンと共に、小売産業に大改革をもたらしました。スターバックスは、日本のコーヒーショップの概念を変えました。ホンダ技研はその昔、省庁からの指示を無視して、自動車業界に参入しました。あなたにはどのような抵抗ができるでしょうか。
  9. まず大切なところに投資をしさえすれば、日本市場に足場を築くことは他の市場と比べて難しいということはない。 上記のポイントはどれも、日本という言葉をどこの国に置き換えても通用します。
日本市場に参入する予定があれば、これらの重要なポイントを考慮すべし。 Click To Tweet

大切なのは原因を突き止めること。仮定はすべからず。

つい最近、有名な米国企業の日本支社のCEOより、階層的なものより、フラットな企業組織の方が良いと思うかどうかという質問を受けました。彼の会社では、大切な情報が下から企業内の階層を通じて彼に届くまでに時間がかかるという問題に悩んでいたため、フラットな組織に変えればこの問題は解決するかもしれない、と考えたのだそうです。しかしこの質問自体が間違っています。というのは、その問題の原因が企業組織にあるという仮定に基づいており、その仮定からして正しくない可能性があるからです。

この場合、なぜ情報の伝達が彼が望んでいるほど迅速に行われていないのか、というのがもっと適切な質問と言えるでしょう。彼にこの質問をぶつけると、問題のネックは、どうも二人のマネージャーにあると感じているとのことでした。その理由は別々のものでしたが、少なくとも一人目の場合は、組織をフラットにしたところで解決するものではないし、二人目の場合はそのマネージャー自身に原因があるため、フラット化は一時しのぎの解決策にしかならないということが、彼にも明白に見えてきました。

企業で個人に能力の問題が出てくる理由は、世界中どこにおいても以下の四つに限られます。(うつ病といったメンタルヘルスに関するケースは別ですが。)

  • 「やり方がわからない。」
  • 「やりたくない。」
  • 「やりたくてもできない。」
  • 上記三つの組み合わせのバリエーション。

これらの原因の対処法は、それぞれ異なります。「やり方がわからない。」というケースであれば、教育で解決できます。私はここで「トレーニング」ではなく「教育」と言いました。トレーニングは動物に対して行うもので、人は教育するものです。この違いは覚えておいて下さい。こちらのビデオをご参考いただければと思います。

「やりたくない。」という社員には、彼らが個人的に利益があると感じているエリアに焦点を当ててやる気を起こさせる方法が考えられます。

「やりたくてもできない。」は、構造上の障害物やリソースの欠落が原因です。プロセスの是正、コミュニケーションの促進、権威がオーバーラップしているエリアの境界の鮮明化、十分な予算、人材、時間、インフラ、ノウハウ、テクノロジーの供給、といった解決策が考えられます。

前述のCEOに、その問題のマネージャー達の問題はどれに当たるかと聞いてみると、どちらも多分「やりたくない。」というケースだと思われるという答えが返ってきました。

つまりこのCEOは、「やりたくない。」という問題に対し、「やりたくてもできない。」用の解決策を使おうとしていたわけです。企業組織をフラットにすれば、下のレベルの社員が上司を通さずに情報を伝達することは可能になるかもしれませんが、それでは最初から伝達から抜く必要などなかった上司自身の問題を解決することにはならないのです。その上、このためだけに組織をフラットにしてしまえば、そのことにより、また別の問題が後から湧き出てくる可能性もあります。

CEOは私の意見に賛成してくれましたが、それでもとりあえず目先の問題に対処するには企業組織を変えるのが一番であると感じているようでした。それが正しいかどうかはわかりませんが、少なくとも彼にはこの問題の根本的な原因がクリアになり、それに基づいて決定を下すことができると思います。

問題を解決するには、まずその根本的な原因を理解することが必須である。 Click To Tweet

このCEOも最終的には「やりたくない。」という問題を対処しなくてはならなくなるでしょう。熟成したウィスキーとは違い、こういった問題は時間が経てば改善するというものではないのですから。

それは彼にもすでにわかっているだろうとは思いますが。