オフィスワーク環境の改善は、労働問題の解決によって行われるものではない

ここのところ日本政府には、能率の悪さ、慢性的な残業、いわゆる「過労死」などといったものも含む働きすぎによる健康被害といった、オフィスワークにおいてよく見られる問題の改善に、業界と協力しあって取り組む、といった動きが見られます。議論されている改善内容というのは、主に人々の働き方や給与の支払われ方(例えば残業時間の制限や報酬について)に関するものです。しかしながら、これでは問題の根本的な部分に対処しているとは言えません。問題なのは人がどのように働いているかではなく、部下のいるマネージャーがしっかり指導をしていない、という点なのです。つまり、オフィスワークの改善とは、政府による労働法の改訂がもたらすものではなく、企業内のリーダーシップ能力不足を解決してこそ起こるものと言えます。

企業内での能率の悪さや過剰な残業を目の当たりにする時、その大体の場合は中間管理職のある種のやり方が原因となっていることがわかります。例えば、

  1. 部下に示す戦略や目的があやふやである。例えば、営業部長からの指示。どの商品を売るのにどのような顧客を対象にするか、どのような点に気をつけるか、取引先のどの人と話をするべきか(もしくはどの人は避けるべきか)、といった具体的な指示を出す代わりに、単に営業ノルマのみを課すような上司の場合。
  2. スタッフに決まった目標の達成や一定の行動基準を守る責任を負わせることをしない。戦略がクリアでない場合によく起こるケースである。
  3. 目標よりプロセスに重きを置いている。マネージャーが部下について、「彼は結果は出していないが、よく頑張っている。」などというのがこの例である。
  4. 報告や情報の交換のための無駄なミーティングが多い。私が管理職、スタッフの両方から一番よく聞く能率の悪さに関する悩みは、ミーティングの多さ、長さ、効率の悪さである。ミーティングとは、何か決断を下すためのみに行われるべきものだ。それ以外の目的のミーティングなど、無駄である。
  5. 失敗することに対する恐れが大きかったり、社内で失敗をすぐに責めるきらいがあると、社員も何をやるにもためらいがちになってしまう。能率の良さは迅速な行動、迅速な失敗、そして迅速な学習からこそ生まれるものである。
  6. リーダーシップや管理能力ではなく、年功序列により昇進が決まる。彼らはメンタリングやコーチングといったサポートを殆ど与えられることなく、実は大変効果の低いリーダーシップトレーニングセミナーのようなものだけ受けて(あるいはそういう機会さえ与えられないまま)リーダー能力を養うことを期待されている。
  7. 仕事を行う上でのプロセスや指針が文書化されていない、あるいは文書化されているにも関わらず、誰もそれを使っていない。代わりに、社員は仕事をこなしながら上司から色々学ぶものと考えられている。故に、もし自分のやっていることがわかっていないような上司から学んだとすれば、その部下もちゃんとしたやり方を学べるわけはなく、継続的な改善などできるわけはないのである。
  8. 仕事に合っていないマネージャーの解雇を拒む。終身雇用制のせいでよく見られる例である。いわゆる窓際族と呼ばれるこういったマネージャーたちは、単に忙しくしてもらうため、という理由から、大したことのない仕事のみを任される。ひどいケースだと、部下もつけられ、その部下にも悪影響を及ぼすことになる。こういった窓際族たちは企業の資源を無駄遣いし、他の社員に迷惑をかけ、もっと効率の良い新しい社員が入ってくることの妨げとなる。
  9. 暗に残業を推奨する。
  10. 残業代のチェックをせずに、残業代への依存を生み出す。

上記事項は、私が悪効率、残業、過労が問題となっている企業を観察した際、しばしば共通して見られた状況です。そしてそれらは全て中間管理層、リーダーシップにおける問題に起因したものです。ですからいくら残業や残業手当、またそれ以外の勤労条件についての規則や法律を変えても、このような問題がなくなるとは思われません。この状況を改善する唯一の方法は、部下を持つマネージャーのリーダーシップや管理能力を強化することです。中間レベルのリーダーの方々がその能力を上げ、自社の能率を向上する為にできるようになる方法には、このようなものがあります。

  1. 明確な戦略、戦略目的、具体的な実行方法、推進状況の測定方法、成功と見なす目標を作成する。これらは定期的にきちんとスタッフと共に見直すこと。
  2. 決まったやり方に従い(例:提案書を提出する前にエコノミックバイヤーを特定しておく、など)、結果を出すことについて、スタッフに責任を持たせる。ミーティングでは、前回のミーティング時に決めたことや約束事をちゃんと守り、行動に移しているかを確認する。
  3. 「頑張ります」とか「精一杯やります」と言えば許されるような雰囲気を無くす。ヨーダの言葉を借りれば、「やってみる、じゃない。やるか、やらないかだ。」
  4. 失敗は学びの機会であり、避けたりその為に罰を受けたりするためのものではない。失敗を恐れる人は、ちょっとでもリスクを伴うものに挑戦しようとはしない。しかし、ビジネス上の成功には、新しいことへの挑戦は不可欠であり、それはしばしば失敗に終わるものでもある。失敗しない人とは、学ぶことのできない人なのだ。実現できなかった最高のアイディアに賞を授与するなど、どうだろう。結果のみを評価するのではなく、妥当なリスクを進んで取ることも評価してあげたいものだ。
  5. 決定事項がないようなミーティングは行わない。またミーティングを行うのであれば、必ず明確な決定事項があり、前もって会議議題も明らかにしておくこと。これらの条件を満たさない会議に出席する必要がないことをスタッフにも伝えておこう。決定事項のない情報交換だけのミーティングなど一般会議とは呼べない。また、スタッフからの報告も一般会議の目的とは言えない。報告が必要であれば、別の方法で会議外で行うべきである。会議とはグループが経験、知恵を集めて特定の問題を解決する場なのだから。
  6. 部下のいるマネージャーには、コーチングとメンタリングを供給する。コーチは企業内外のどちらから探しても良いが、私は個人的には両方を勧める。
  7. プロセス、やり方、技法などを文書化する。そしてこれを元に改善、業績の評価、新社員の教育を行う。プロセスは定期的に見直し、改訂を行い、常に使えるものにしておく。私は年に一度の見直しを推奨している。
  8. 仕事に向いていないマネージャーは解雇する。サポートすることもやってみたし、社内に他に向いた仕事がない、というのであれば、辞めてもらうべきである。その際には妥当な離職手当を出し、人道的なやり方で行おう。大体元はと言えば、あっていない人を採用したのは、会社のせいなのだから。
  9. 定時には帰宅し、部下にもそうしてもらう。ドアまで一緒に行くのもいいかもしれない。
  10. 良い結果を出した社員には金銭的な報酬を与える。(あくまでも結果に対する報酬であり、働いだ時間に対するものではない。)

上記の提案事項は、どの企業のどのマネージャーでもすぐに実践できることであり、また即座に結果が出せることでもあります。政府が色々やろうとしていることをじっと待っている必要などありません。あなたが下に何層もの管理職レベルがあるような大企業を経営しているのであれば、まず、自分の直属のチームから始めてください。そのレベルでの改革が行われば、彼らにそのやり方を教えることで、その下のレベル、またさらに下のレベルへと改革を浸透させて行くことができるのです。もう一度言います。程能率問題の殆どは、仕事そのものに原因があるのではなく、リーダーシップに起因するものです。そしてリーダーであるあなたは、その問題を解決する力を持っている筈です。


AIGジャパン・ホールディングス株式会社代表取締役社長兼CEO、ロバート・ノディン

昨日、AIGジャパン・ホールディングス株式会社代表取締役社長兼CEO、ロバート・ノディン氏をゲストにお迎えした、”Conversation with…”というイベントを開催させていただきました。”Conversation with…”は在日米国商工会議所主催のランチイベントsシリーズで、優雅な雰囲気の漂う東京アメリカンクラブで行われます。今回は約100人の方がご参加になり、全員に私の新しい本をプレゼントさせて頂きました。

これは非公開のイベントだったのですが、ノディン氏との刺激的な会話から私が個人的に学んだことについて、ここに書かせて頂きたく思います。

  1. 保険業界のように何十年もその基本的な機能に変化が起こっていない業界は、いつ崩壊してもおかしくない。崩壊するのを黙って待っているか、それとも自分から崩壊させるかは、自分にかかっている。自分から崩壊させる方を選ぶのが賢明である。
  2. 崩壊の元となるのは直接の競合相手とは限らない。例えば、グーグルやアマゾンなど、情報に関して精通していることを利用して、自分たちに有利になるようにあらゆる業界のビジネスモデルを変えるようなビジネスも存在する。
  3. ビジネス界では日本の規制の厳しさや頑なな官僚主義を嘆く人が多い。しかし、規制を変えることで、日本の消費者が恩恵を受けたり、ある業界が国際的競争力をつけたりすることができるということさえ示せば、規制機関が耳を傾け、行動に移してくれる可能性は高まるものである。
  4. 多くの企業は、膨大なデータから消費者の行動を予想することに力を注いでいるが、消費者にとっての本当の価値創造の機会というのは、情報を使うことで消費者が自分たちの為により良い決断を行うことにある。
  5. イノベーションにおいて最も重要な能力とは、現状を手放すことである。現状を快く手放すことができなければ、新しいものを生み出すことはできない。

私は在日米国商工会議所主催の”Conversation with…”イベントを定期的に行なっています。近い将来にもまた日本のトップリーダーの方々を招いて開催したいと思っていますので、お知らせをお見逃しなく。