人の順応性・適応性の高さ

ドナルド・トランプ氏が大統領選に勝てば、人々は彼の政策が世界経済に及ぼす影響を懸念して絶望的になり、その結果株市場の暴落が起こるだろうという経済学者たちの予想を覚えていますか。この予想は、正しくもあり、また全然違ってもいました。確かにトランプ氏当確というニュースが流れると株価は下がりましたが、その後、株価市場は反発し、上昇しました。

私がトランプ氏をサポートしている、と言っているわけではありません。我々はそれぞれの意見を持っているわけですから。私がここで言いたいのは、実際に何かが起こった時に感じる恐れより、将来起こるかもしれないことに対する恐れの度合いの方が、往々にしてずっと大きいものだということです。人というものは、新しい状況に置かれると、可能と思われるよりずっと早くそれを受け入れて順応する、という驚くほどの能力を見せます。トランプ氏選出の場合なども、投資家たちが選挙結果を受け入れ、それに対応するのに、何時間かしかかかりませんでした。

私がこの最近の例を出して人間の回復力と順応力を示したのには訳があります。私が日本でこれまでに出会った会社社長の方々の多くは、戦略上必要な変革を提示した時に、社員から絶望的な将来予想を提示されると、躊躇します。

「現在使っている販売ネットワークを切ってしまうと、顧客も失ってしまう。」

「この商品ラインの販売をストップすれば、お客さんは、他の商品もうちから2度と買ってくれなくなる。」

「もしうちの営業部が、検討するための提案書を集めるといった雑用的な役を行なっている人に焦点を当てるのではなく、もっとエコノミック・バイヤーの人たちにアプローチするようになれば、うちの社と取引したがるところがなくなってしまう。」

・・・などといった例が考えられます。

社長をやっていらっしゃる方々の中には、社員の不安を気にして、というよりも、彼らがうまく対処できるかどうかが疑問だという理由から、必要と思われる改革を行うことをためらう人もいます。

しかし変革を導入し、ビジネスの新しい現実というものを人々が受け容れるようになれば、大体皆、素早く順応し、対応していくものです。リーダーの方々は、そこのところを理解し、必要な改革を取り入れる決断を下すことが大切です。改革実行前に社員がどのようなことを言っていたとしても、導入後には彼らも大丈夫になるということを理解し、自信を持ってその決断を行なってください。


人を信用することから得られる利益と、疑うことから発生するリスク

つい最近、新幹線のグリーン車に乗っていた時に、ふと、車掌が乗車券のチェックをしていないことに気付きました。かつては新たな乗客が乗ってくるたびに、ユニフォームを着た、殆どの場合は女性の車掌がまずサービスのおしぼりを配り、客席番号をチェックしてから、数分後にまたそこに戻って着て乗車券のチェックをしていたものです。それが今ではただおしぼりを配るだけで、乗車券の確認は無くなっていました。

多分、高いお金を出してグリーン車の指定席券を買うような乗客をわざわざ煩わせてまで乗車券のチェックをするのは意味がない、ということになったのでしょう。またそうすることで、車掌の業務も半減したと思います。日本ではグリーン車のチケットなしにグリーン車に座ったり、間違えてグリーン車に乗ってしまうなどというケースは、本当に稀なことでしょう。殆どの乗客が正しい行いをしているような環境で、わざわざ乗車券のチェックをし、スタッフ、乗客の両方を煩わせる必要などあるでしょうか。それに、もし、ほんの一握りの人たちがグリーン車のチケットなしにグリーン車に乗っていたからといって、それを気にする人などそういないと思います。どのような影響があるというのでしょう。また同時に、JRが、グリーン車を常用してくれるような乗客に対し明らかな信頼を示せば、その好感度は上がるはずです。そこから生まれる利益も多いのではないでしょうか。

ビジネスの場面で、他のビジネスチャンスを犠牲にすることになっても、とにかく損をしないように色々な努力を払う人々を見かけます。例えば社員に大変負担になるようなレポートを作らせる上司がいますが、レポートを作る代わりに、その時間を使って営業や顧客サービスだってできるかもしれません。また、会社のトップの方々がビジネスパートナー候補にアプローチする時に、とにかく騙されないようにということばかり考えて、オープンで創意にとんだ態度で可能性を語り合うかわりに、はっきりしない慎重すぎる態度をとってしまっている様子も見たことがあります。

ある日本の喫茶店で経験したことですが、私がアイスコーヒーをオーダーした時、一口飲んだだけで既に砂糖が入っていることに気がつきました。砂糖なしが欲しかったので他のものをリクエストすると、新しい注文としてその分追加で払わされました。もう既に砂糖入りのコーヒーに口をつけていたし、もともと私が注文を間違えたせいだから、というわけです。これがスターバックスであれば、余計な質問をすることもなく、すぐにただで新しい飲み物を出してくれます。実際、私もこれを経験したことがありますが、何人の人がこのスターバックスのサービスを悪用したりするでしょうか。

騙される可能性が低かったり、その影響が大したものでないと思われる殆どのシチュエーションでは、人は信頼できるという仮定に基づいて行動しましょう。たまに騙されるようなことがあったとしても、人を信じることによって得られるチャンス、信用、信頼は、大体にしてそのコストを大きく上回るものです。そしてもし騙されることがあったとしても、それは忘れて良いのです。たまに損しても、全体ではもっと得られるものが大きいはずですから。


決断にスタッフからの賛同は必要であるか

何か決定をする時にスタッフにも参加してもらうのは、決定事項に対する賛同を得、またそれをうまく達成するために、有効だと言えます。もちろんそのためにあなたがリーダーとしての役目を失う必要があったりする場合は別ですが。スタッフの参加が必ずしも良いとは限りませんし、彼らの賛同を得ることも常に必要というわけではありません。事項によってはまず一方的に決定した方が良いですし、いくら反対意見があったとしても実行させるのがベストなことだってあるのです。

人というものは大体自分の利益になると思うことに基づいて行動します。そしてその行動はビジネスにとっていつも良いものであるとは限りません。特にこれは戦略的な変化を実行しようとしている時などによく見られます。そんな中でも、あなたがリーダーであれば、反対や抵抗に会おうとも、正しいと思われる方向に舵を切らなければなりません。でなければ、正しいことを行ったとは言えないのです。

しかし、だからといってスタッフに参加してもらい、その賛同を得ることができないというわけではありません。大切なのは、目の前の決定事項について、どのような形でスタッフに参加してもらうか、ということです。かなりの成功を収めている私のクライアントである某社長は、何かを実行するかどうかを決める時は自分で行い、それをどのようにして実行するかは、スタッフと共に決定しています。

私のクライアントの他の社長の例を挙げましょう。彼はある時、自社の作る技術的にユニークな製品を伸ばす余裕を作るために、それまで扱っていた一般商品流通のビジネスをストップすることを決めました。当時、その一般商品は総売上の半分を占めており、顧客は一般商品とそのユニークな製品の両方を買うことが普通でしたので、この社長の決定を聞いた営業マネージャー達が驚いたのはいうまでもありません。

「それで、売り上げと利益のノルマをどうやって達成できるのか。顧客が離れていく可能性だってある。自分のボーナスは削減されるかもしれないし、そのうちレイオフだって必要になるんじゃないだろうか。」この決定は、営業スタッフを不安に陥れました。社長の決定がビジネス戦略の上で利益になるかどうかより、自分たちの利益にどう影響してくるかで頭が一杯になったのです。

社長はまず、時間をかけてスタッフにこの決定の利点を説き、実行する前に賛同を得ることを考えました。しかしこれはまず無理な話です。長く待てば待つほどスタッフの反感は強固なものとなっていきました。実際のところ、社長が躊躇する様子はスタッフの心配内容を裏付けるように映ったのです。こうしている間に会社はビジネスの機会を逃し、将来の競争力をどんどん大きなリスクに晒していきました。

こういうシチュエーションこそが、リーダーが一方的に「実行するかどうか」を一方的に決定すべき時なのです。「一般商品のラインをやめるかどうか」などといった質問は、スタッフにするべきものではありません。ビジネスのオーナーとリーダー達の間のみで決定すべきです。そしてどのようにしてそれを実行するかということこそが、スタッフに参加を求めるべき事項です。この社長もこの商品ラインをストップする決断を自分で下し、そのやり方についてはスタッフと協力して考え、実行することにしました。最初こそスタッフからの抵抗や不安が聞かれましたが、それもいつしか生産的な活動を行うことで、消えていきました。結局その多くは決定事項に賛成し、それを成功へと導くための素晴らしいアイディアを出してくれたのです。

会社で戦略的な変化をもたらすための決断を下す時、スタッフに相談することが悪いというわけではありません。ただ、自分の決断がビジネスにとって一番良いものであるようにすることは忘れないようにしましょう。スタッフからの賛同を得られないからといって、決断を先延ばしにすることは禁物です。決断をまず下し、その後でどのように実行するかを決める時にスタッフに参加してもらえば良いのです。