変革を拒むシニアレベルの営業スタッフ

ここのところの市場や戦略の優先順位の変化のスピードは、日本の多くの企業における上級営業スタッフの仕事のやり方の変化を上回るものでした。企業がずっとうまくやっていくためには、ターゲットとなる顧客や産業、売り方や価値の供給方法も変化する必要があります。しかしながら、会社社長の方々は、よく過去にしがみつこうとするベテラン営業担当者のことをこぼされています。これは外資系企業の日本人以外のリーダーだけでなく、日本企業の日本人リーダーにも見られる傾向です。

企業の社長は、重要な顧客との関係は営業スタッフが築き上げてきたものであり、それを壊すのが怖いがために(この恐れは誇張されたものであったり、事実無根であったりすることが多いのですが)、営業のやり方の変更を強要することを躊躇するきらいがあります。同時に、上級営業スタッフが変化を拒んでいる間は、若手営業スタッフにそれを実行させることは無理です。そのような環境で若手営業スタッフをトレーニングしても、失敗するのは目に見えています。つまり、現在のやり方はそのままで、改善だけ行っても大した結果は出ないし、新しいやり方を実践するのは不可能、という、行き詰まりの状態にぶち当たってしまうのです。

以前、パフォーマンスの格差が起こる原因はこの3つの中のどれかである、ということを書きました。

  1. やり方がわからない。
  2. やりたくない。
  3. やりたくでも、できない。

1番の場合、そのやり方を教えることで解決できます。3番の場合であれば、構造上の障害を取り除けば良いのです。しかし2番のケースはそう一筋縄ではいきません。教えたりプロセスを作り変えることで問題の原因に対処するということができないからです。変化を拒むベテラン営業スタッフの場合、問題は「やりたくない」というところにあり、これを解決するには、まずその動機を理解してあげなければなりません。

日本のベテラン営業スタッフの多くは、経験を重ね、顧客と良い関係を築き続けることで、キャリアを積んできました。彼らは、自分の価値は、自分の持つ顧客と業界の知識にあると考えています。日本の営業を行う企業には、大したトレーニングを行うところは殆どありません。正式な営業方法やプロセスを採用している企業もあまり見受けられません。新人営業スタッフは先輩のやり方を真似ることで営業を覚える、という文化なのです。ですから、ベテラン営業スタッフは、営業プロセスを知っている、というよりも、自分が営業プロセスそのものである、とも見ていると言った方がいいかもしれません。

しかし現実には、営業とは単なるネットワークの広さではなく、れっきとした特別な職種です。商品や業種、市場に関係なく通用する、営業独自の原理やメソッド、手法、言語も存在します。有能な営業のプロであれば、どんな業種においても成功します。きっとあなたご自身も、様々な営業の役目をうまくこなしてきた人に会ったことがあるでしょう。

ベテラン営業スタッフには、今自分が持っている知識、今販売しているもの、セールスを行っている場所、同じ仕事を行っている長さ、といったことに価値を見出している人が多くいます。彼らにとって、新しい業種や市場に入っていったり、見込み客をゼロから開拓したり、新タイプの商品やサービスを売り込むことは、かなり怖いことです。何十年もかけて作り上げてきたキャリアのシステムが突然崩れてしまう、と感じるわけですから。自分の人脈は無価値となり、業界、商品知識は関係ないものとなります。自分のやり方は、もはや後輩の模範とはなりません。

これは非公式に降格させられたようなものです。実際、自分は突然、新人営業スタッフと同じレベル、白紙の状態に引き下げられた、と思うかもしれません。いや、白紙の状態、というより、土台をもぎ取られた、という感じるでしょうか。今から他のスタッフと同じく新しいことを学び始めなければならないわけですが、これまで社で勤めた年数に比べ、退職までの年数の方が短い場合だってあるかもしれません。それは脅威を感じるのも自然なことです。

しかし、このように怯えているベテラン営業スタッフにも、自分では気づいていない価値があるのではないでしょうか。業界や製品独特のやり方と思われるものでも、外部で使えることもあります。そのようなものを分け合い、文書化して、他のスタッフが学べるようにすることもできます。さらに大切なのは、ベテラン営業スタッフは、リーダーシップの役割を負うことが可能であるということ。すでに模範となっているのですから、新人営業スタッフは、アドバイスを求め続けるでしょう。ここでは、新しいことを学ぶことや、リスクを負い、新しいチャンスを追い求め、失敗を恐れすぎない、といったことに寛容な姿勢を持って、模範となるべきです。

ベテラン営業スタッフは、自分のキャリアが崩れる、と考える必要はありませんが、革新を行うことは大事です。社長はそれに手を貸すことができます。まず、営業スタッフ全員をトレーニングする前に、ベテラン営業スタッフと営業マネージャーと幾つかのことに取り組みましょう。最初に営業リーダーの人々と共に、営業原理、プロセス、ツール、メソッドを作り上げてください。営業メソッドは書類化し、共有したり、教育に用いたり、改善ができるようにします。リーダー達とは、新しいメソッドをどのようにして社員に実行させるか、どうやって教えるか、実行する際にどのように説明責任を負わせるか、どうやって定期的に練習、改善ができるようにするか、などを一緒に考えましょう。上級営業リーダー(部下のいる営業マネージャーや、長年勤め、他から尊敬されている非公式なリーダーなど)は、この戦略的変化においてのパートナーにしてください。こうすることで、「やりたくない」という問題に対処するわけです。

どれだけ頑張って「自分のためになるのだから」と説得したところで、ベテラン営業スタッフの誰もが変化に賛成してくれるわけではありません。これは仕方ないことです。しかし、私の経験では、上記のやり方でアプローチすれば殆どはいつか賛成してくれます。ベテラン営業スタッフを失ったり、戦略目的を妥協してしまうことに比べれば、はるかに良いオプションです。