変化と屈折層

私の父は、かつて、地表を爆破する人々の手助けをしていました。物を爆発する類いのものではなく、石油発掘のためのいわゆる「非破壊試験」と呼ばれるものです。地面につけた特殊なセンサーと込み入った計算を駆使し、爆破が生み出す圧縮波から得られるフィードバックを解釈することで、地底何千メートルまでもの内部画像を作り出すことが可能になります。

この圧縮波を利用した地底の画像化が非常に難しい理由のひとつに、屈折層があげられます。屈折層とは、それを形成している物質が、その上の層の物質と大変異なっている地層のことです。屈折層は波動に影響を与えます。屈折層の物質が特異であればある程、波動への影響は大きく見られます。屈折層は波動をそらして部分的、或いは100%未知の彼方へと送ってしまったり、下へと進む波動の方向やスピードを変えたり、まるっきり拡散させて消滅させたりすることさえあります。

組織の中にも屈折層は存在します。地上で爆発物に点火するように、トップから下される変化の指令は、いくつもの管理層を通り、下へと向かって伝わってきます。この管理層間の考え、態度、価値観の格差が大きければ大きいほど、変化の為の努力が広まるにつれ、その影響力も大きくなります。組織における屈折層は、変化に対する努力を部分的、或いは全体的に台無しにしてしまったり、忘れさせてしまったり、その方向やスピードを大きく変える力を持っています。時には変化についての戦略を、まるまる消滅させてしまうこともあったりします。

社内に変化をもたらそうとしている組織がよく犯す間違いのひとつに、この屈折層を通すことなく回り道をしようとすることが挙げられます。ある国際配送会社では、日本営業部門の営業方法を変えようとした際、シニア営業マネージャー達にこの変更を取り入れることについて関与させるのを渋っていました。

「シニア営業マネージャー達は、うちの大手の顧客と個人的に強く繋がっているんです。」とアジア担当のシニアディレクターは私に話してくれました。「いつも営業は決まったやり方で行われていて、それでずっとうまくいってたんです。だから彼らがこの変更を歓迎してくれるとは思えません。今彼らにいろいろ無理を言えば営業成績に影響がでるかもしれませんしね。今のビジネス環境の中でこの先成長をしていくのに変化を取り入れるのが必要だとはわかってはいるんですが、そんなわけでシニアではなく、もっと経験の浅い営業スタッフに焦点を当て、変更を実行してもらおうとしたわけです。」

しかしながら、後輩スタッフというのは大体、先輩の営業方法や態度を見て、学ぶ物です。結論を言うと、会社上層部が取り入れさせようとした変化は若手社員にも受け容れられることなく、この会社は競合相手にマーケットシェアを奪われ続けている状態です。

私のクライアントのある会社では、いくつかある営業部のトップ達が、屈折層となっていました。その多くは会社が取り入れさせようとする変化に抵抗を示していました。このトップ達を飛ばして、直接営業スタッフたちの態度を変えようと言う試みも、すでに失敗。それでもこの変化がどうしても必要だと感じていた会社の上層部は、面倒だと思う気持ちを抑え、営業部のトップ層に掛け合うことにしました。結果、その層の何人かは移動となり、変化を実行することとなったマネージャー達には、会社もサポートを行いました。誰も無視されるということはなかったのです。やがて営業スタッフの態度は改善し、営業成績もかなり向上しました。

多くの日本の会社では、公式、或いは暗黙に行われている年功序列制を通して、気付かぬうちに屈折層を作り出しています。学校卒業後、同時に入社した同期生というのは、何年もの間同時期に出世を繰り返しながら、独特の層を作りあげる傾向があります。沈殿作用でできる地底の層のように。しかし、組織の屈折層が地底の層と違うところは、石のように固まっている訳ではなく、変えることが可能であるところです。マネージャー達に見方を変えてもらうこともできるし、彼らを移動させることもできます。忘れてならないのは、地底の画像を作り上げる時も、組織に変化を広める場合も、屈折層をよけて通ったり、無視したりすることはできないということです。


肥満:物事の原因を誤解することの危険性について

先日、米国医師会は何年にも渡った議論の末に、肥満を病気のひとつとして分類し直しました。それまで肥満は、行為障害であるとされていました。暴飲暴食や怠惰さが招く症状だと考えられていた訳です。ですので肥満に悩む人々に対する医者の指示は、単純に食事を減らしなさい、とか、もっと運動しなさい、といったものでした。しかし、その80%が太り過ぎ、30%が肥満の領域にいると言われるアメリカ人にとって、自国が怠け者な過食者で溢れ返っているという事実を受け止めることは簡単ではなくなってきました。

我々はそもそも肥満の原因というものを理解していなかったということについては、多くの証拠があります。人々は相変わらず太り続け、また減量してはまた太るという繰り返しを続けており、殆ど解決不能ではないのかとさえ思われてきます。しかし肥満の原因の理解が正しくされていないということも、その理由に挙げられるのではないでしょうか。

考えてみて下さい。暴飲暴食や怠惰さは実は肥満の原因ではなく、逆に肥満が引き起こすものだとしたらどうでしょう。そうすると、単に運動量を増やしたり食べる量を減らしたりしても、それは根本の問題を解決するわけではなく、単に症状を緩和しているというだけのことで、本当に効き目があるとは思われません。実際、食事制限や運動量の増加は、長続きする減量には全然役立たないことは明らかになってきましたし、人によっては短期間の減量にも役立ちません。食べる量を減らしなさい、もっと運動しなさい、というのは太った人にとっては良くないアドバイスであるばかりでなく、危険なアドバイスともなりかねないのです。

原因を取り違えることは、ビジネスの世界でも同様に危険なことです。私のクライアントは一時、新しい工場で製造された製品がなかなか売れず、売れ残った製品でどんどん肥満状態となりつつありました。社長がそれを見て私に言ったのは、「スティーブン、日本人は単に怠慢だから、こういう問題が起きるんだよ。うちの営業部の社員達は、必要な努力を払ってくれない。彼らは給料がもらえればいいわけで、朝に出社すればまずのんびりお茶を飲んで新聞を読んでいる。頑張って働こうという気がないんだね。」

私も日本人に対していろいろな印象は持っています。尊敬できる特徴もあれば、そうとも言えないものもある。でも怠惰さを日本人と結びつけたことはありません。日本人だけの営業部で営業成績を上げている日本の会社だって多く存在するではありませんか。

先述の社長はこう続けました。「うちの社がやらなくちゃいけないのは、何とか営業スタッフを一新することだよ。営業スキルを改善しなければいけないのかもしれない。態度をかえさせるのも必要かもしれないね。何が一番いいのかは私にもわからないが、とにかく営業スタッフの態度をなんとかする必要があるね。」

でももしこの社長が言う営業スタッフの「怠惰さ」は、実は散々な営業成績の理由ではなく、結果だとしたらどうでしょう。その場合、営業スタッフの態度を直すことは、肥満を治す為に食事を減らし運動量を増やすことと同じ位効果がないのではないでしょうか。

そこで私はこの会社の営業部長やスタッフにいろいろインタビューをしました。

「社長は新工場建設決定を下す前に、私たちに全然相談してくれなかったんですよ。」と答えたのはシニア営業マネージャーでした。「相談してくれてさえいれば、この商品を買いたがるような市場はない、ということを伝えていました。会社が商品の価格や品質を決めた時の前提事項は全部間違っていたんですから。」

「あの工場の商品のことですね。」とある営業マンは私に言いました。「日本の顧客にとっては品質が悪すぎるし、できるまでにかかる時間も長過ぎます。逆に海外の顧客から見れば、価格は高すぎるし、品質ももっと低くても良い。つまり買いたがるような顧客は存在しないんです。私だっていりませんよ。」

現存顧客、潜在顧客やその他の市場関連者にもインタビューを行った結果、我々はついに本当の原因に辿り着くことができました。そしてそれは営業スタッフの態度とはまるで関係のないものだったのです。

結果、この会社は商品戦略を変えました。営業スタッフへの変更はなしのままです。その後工場は利益を出すようになり、会社の過剰在庫もなくなり、またすっきりした姿に変貌しました。

では、肥満の真の原因とは何なのでしょうか。どうも肥満とは複数の状況に引き起こされるもので、日頃の行いがその理由であるということは殆ど無いようです。

医師会が肥満の理由を長い間ちゃんと理解していなかったと認めるのは、簡単なことではなかったと想像できます。上記の私のクライアントの社長も、自分の間違いを認めるのは楽しくはなかったと思いますが、早急、そしてスマートに措置をとってくれました。米国医師会が間違いを認めるにはもっと時間がかかりましたが。