日本はガラパゴスにあらず

ガラパゴス現象という言葉は、商品やサービスが外界から隔離された独特な環境で開発された結果、周りの世界標準からかけ離れ、互換性もなくしてしまう状態を指します。まさに離島であるガラパコス諸島や、チャールズ・ダーウィンの研究によって知られるようになったその独自の動物相と同じように、日本という国もガラパゴスに例えられることがよくあります。例えば、携帯電話。日本の携帯は世界標準に関係なく開発された独自の技術が使われているため、つい最近まで海外で使用することができませんでした。

しかし、この日本がガラパゴスであるという例えは過去には通用したかもしれませんが、現在ではそのようなことはありません。今日言われる「ガラパゴス」とは状態ではなく、心理状態を指すものであり、「ガラパゴス現象」も日本が自らに課した言葉と言えると思います。

これは実際にあった話なのですが、ある時、日本の航空会社の役員が、「うちの会社では外国人の顧客を増やそうとしたのに、マーケティング部門の社員達は、日本人以外の顧客は何をすれば喜ぶのか全然わからず、そのせいでこのプロジェクトはスタート時点で頓挫してしまったんですよ。」と私に愚痴をこぼしました。

「どうして日本人と外国人は感じ方が違うと思われたのですか。」と私。その質問自体に驚きつつ、彼は「日本人も外国人も同じかもしれないなどという考えなど、全然浮かばなかった。」と彼は答えてくれました。

日本はガラパゴスではありません。例えるならば、今日の日本は、米国コロラド州のレッドヴィル市のようだと言えるでしょう。レッドヴィルはロッキー山脈真っ只中の高地に位置するため、サイクリング、ランニング、水泳といったスポーツの厳しいトレーニングがよく行われる街です。レッドヴィルで良い結果が出せれば、それ以外の場所に行けばさらに良い結果が出せるというわけです。故に、オリンピック選手も含め、世界のトップアスリートの多くがレッドヴィルでトレーニングを行なっています。

世界でも最も成功していると言われる企業のリーダー達の中には、アスリート達がレッドヴィルを訓練の場として見ているのと同じように、日本をグローバルビジネスのトレーニングの場として見ている人たちがいます。商品やサービスが日本で売れれば、日本国外に行けばもっと売れる可能性が高いと考えられているからです。私はこの現象を「レッドヴィル現象」と呼んでいます。

例えばスポーツ用シューズで有名なドイツを拠点とするアディダス社は日本にアディダスジャパンという支社を持ち、そこで日本の消費者向けの高級ランニングシューズを常に開発しています。このランニングシューズは海外で発売しても、その高い値段に関わらず、よく売れることが多くあります。

同じようなことは、フランスに本社を置く国際的な種苗会社、ヴィルモラン社でも見られます。ヴィルモランでは、日本子会社の研究開発チームが日本市場用に作った製品で、人参の種の世界市場の3割を取り込むことに成功しました。この日本の種はかなり値が張るものなのですが、普段は価格に敏感な中国のような市場でさえ、良い売れ行きを見せています。

レッドヴィル現象は外資系企業以外でも見受けられます。ユニクロブランドで有名なファーストリテイリング社や無印良品の良品計画社は、共に躊躇することなく日本での成功に基づき海外展開を行い、成功を収めました。両社とも、海外店舗での販売価格は日本国内の店舗での価格よりかなり高めに設定してもいます。

あなたのビジネスではどのようなことができるでしょうか。レッドヴィル現象を利用して成功した企業のCEOの方々に経験を語ってもらうと、このような共通点が浮かび上がってきます。

  1. 彼らの頭にはガラパゴス現象などという考えはありません。日本でうまくいけば海外ではもっとうまくいくはずという仮定がまず根底にあるのです。
  2. 彼らは日本をレッドヴィル、つまり、世界に通用する素晴らしい商品やサービスを開発するための、チャレンジに満ちた準備をする場所と見ています。
  3. 彼らは日本にある研究開発部門や技術を利用することで、まず日本で通用する画期的で市場に大きな影響を与えるような高質な商品を作りますが、後に海外でも発売することも最初から念頭に置いています。
  4. 彼らは商品や手法の持つ日本らしさをあえて無くそうとはしません。それはその日本らしさこそが成功の鍵であると考えているからです。

こういったビジネスリーダーの成功が、他のリーダーに与える影響は、どんどん大きくなっているようです。高級リゾートビジネスを展開し、日本らしさの典型例とも言える星のやは、最近、バリ島にホテルを開業しました。CEOである星野佳路氏はその際、日本で使っているビジネスモデルをそのまま使用したそうです。星野氏のこの判断は、世界的な成功に結びつくでしょうか。レッドヴィルでトレーニングを行うトップアスリートと同じく彼も絶好調ですから、私はきっと成功されることと見ています。

この記事の要約版は、2017年6月5日付の日本経済新聞に掲載されました。
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO17223070S7A600C1SHE000/