どうして悪循環が続くのか:古い戦略からの脱出

皆さんにも覚えがありませんか。まるで冬眠して忘れさられ、戦略の倉庫にずっと閉じ込められていた獣でもあるかのような、古いマンネリのゴールや方策、イニシアチブなどが、毎年の戦略会議になるとわざわざ引き出されてくることが。そして我々は、まるで新しい装具を付けたり古くなった鞍を磨いたりすることで、じっとしていないサラブレッドにまたがり、新たな牧場を探して未知の丘に向かって走り出したくてたまらないようなふりをしたりします。しかし実のところは、サラブレッドではなく、アフリカン・ワイルドビーストのように、本能的に、特に意図的に考えることもなく、年に一度の集団移動のために通り慣れた茂みの中の道を歩いているといった方が正しいでしょう。何にも考えていない訳ですから。

どうしたわけか、我々はどれだけ頑張っても、結局前年と大して変わらない戦略に落ち着きがちです。もし外部の人間が前年と今年の戦略を並べて比較した場合、その違いがわかると思われますか。来年もまた同じ問題について討議し、何か違う結果がだせるかもしれないなどというふりしているだろうと考えながら、戦略実行に取りかかってはいませんか。この悪循環をどうずれば断ち切ることができるのでしょうか。

なぜ古い戦略が残り続けるのか。

古い戦略から脱出することを考える前に、まず、どうして古い戦略がなくならないのか、その3つの理由を見てみましょう。

1. 雲梯から降りられなくなった子供

雲梯の真ん中で急に動けなくなる子供がいますが、それと同じく、過去に会社を成功に導いたものから手を離すというのは、怖いものです。これは成功の落とし穴とも呼ばれ、会社があるひとつのことを行うことで大成功した結果、その幹部が方向を変換することを過剰に恐れるようになる現象です。正確に言うと、方向転換に伴うリスクを恐れる、ということですね。雲梯で動けなくなった子供は、後ろの手を離して前の棒をつかむ勇気を奮い起こさねば、前に進むことはできません。その勇気を出せなければ、雲梯の真ん中でぶら下がったまま。しかしそこにずっとぶら下がっている訳にもいかないこともわかっています。

私が仕事をご一緒させて頂いたある会社もこのような状況にありました。その会社は某有名メソッドに基づいたトレーニングコースやコンサルティングサービスを扱う会社なのですが、そのメソッドというのは20年ほど前に大変人気のあったもので、現在でも知られてはいますが、だんだん廃れつつあります。当時は他に同様のサービスを提供する会社が他に存在しなかったおかげで大成功をおさめられたのですが、その後、競合会社も増え、結果、この会社が提供するものもありふれたサービスと見られるようになってきました。しかしながら、そのメソッドを提供することを変えようとはしませんでした。結果、行き詰まってしまったのは言うまででもありません。常にサービスの売れ行きが落ちていくことを懸念しながらも、やり方を変えることを恐れていたからです。

2. 得体の知れない思い込み

組織のリーダーが、目の前の現実が異なっているにも関わらず、自分の思い込みにしがみつき、それに基づいた戦略を実行し続けることがあります。周りは誰も特に疑問を投げかけることもなく、この思い込みは変わらないままです。ある看護師さんから聞いた話なのですが、1950年代には、医者は点滴などの際、管を流れる薬品が重力に反した方向に流れていれば、その管を消毒する必要はない、と言っていたそうです。このとんでもない思い込みは、驚くことに感染度の高さにも関わらず、随分長い間信じられていたと言います。

戦略会議の場では、このような得体の知れない思い込みを耳にすることがしばしばあります。例えば、「中国人は安いものしか買わない。品質が高いからといって、その分余計に払ったりしないんだ。」など。

こういった思い込みが正しかったことも過去にはあったのかもしれません。しかし、現在の上海の町や、銀座の店、パリのブティックで見られる光景とはほど遠いと言えます。

3. マジノ線

マジノ線とは、現在では通用しない過去の状況に基づいて作られたものの例えです。フランスがドイツが東側から攻めてくるのを防ぐ為に、第一次世界大戦時の状況と当時成功した戦略に基づいて築き上げた防衛ラインがマジノ線です。しかし1940年に、ドイツはこのマジノ線を超えることもなく、ベルギーを通ってフランスの攻略に成功しました。

私の知っているある西洋の会社は、東京に業界貿易物産振興会を立ち上げてから20年になります。彼らは日本の輸入農産品を促進するのにかなりの努力を続けてきました。かなりのマーケットシェアも誇り、商品のブランドも確立しました。

何年も前、社の主な戦略は、食品の安全性と日本人の舌にあった食品に関連するものに焦点が当てられていました。当時その戦略は見事に当たった訳ですが、現在でもこの会社は未だ90年代であるかのように、同じ目的に沿った戦略を作成し続けています。かつて成功した戦略も、現在の市場では特に成果を上げることもなく、大体必要でもありませんし、最近出てきた安価で商品を提供する競合会社にマーケットシェアを奪われていくことを防ぐ助けにもなっていないのにもかかわらず。

古い戦略から脱出する方法

では、この問題を解決するにはどうすればいいのでしょうか。ここではそうするために戦略開発時に使える3つのやり方を紹介致します。

1. 視点を変えること。競合会社の立場から見てみる。

私のクライアントであるある会社は、海外から日本に参入してくる競合会社から大きなプレッシャーを感じていました。輸入に関する法律が変わり、これらの会社が日本市場に切り込んでくることが容易になってきていたのです。 この会社の幹部は、環境が大きく変わっていたにも関わらず、新しい戦略と前年度の戦略に相違点が殆ど無いことに不安を抱いていました。古い慣れた戦略をまたリサイクルしているようなものです。

そこで、我々は自分たちの戦略を作成するのではなく、競合会社の立場に立って彼らの戦略を作成する、というやり方にトライしてみました。いままで参入できなかった市場に参入できるようになったとしたら、マーケットシェアを拡大する為に何をすればいいでしょうか。これまで市場を牛耳っていた会社を押しのけるには、何ができるでしょうか。

競合会社の立場でものを考えることにより、2つの効果がありました。まず、チームが未開という視点から戦略を作ることで、市場をよりよく理解できるようになったこと。古いやり方から解放される結果となったのです。そして、競合会社がどういった動きに出るかという仮定を作成する助けになり、結果、対応方法や不慮の事態の際のプランを練ることができました。おかげで新しい戦略は古いものと全く異なり、新しい市場の実状をふまえたものとなりました。

2. 自分自信に挑戦。ビジネス・シミュレーションを行う。

ビジネス・シミュレーションは、戦争ゲームと呼ばれることもあります。社員が自社と競合社のふたつのチームに分かれ(顧客を含めた3つのチームに分かれることもあり)、シミュレーションを行うのです。こうすることで戦略を仮想状況でテストすることができ、通常のテクニックを使って戦略作成する時には普通得られないような洞察につながります。リサーチや準備、第三者からの助けを必要とし、数日かけて行われることもあります。

シミュレーションを成功させる秘訣は、最適のチームメンバーを選ぶところにあります。特に競合会社と顧客のチームの役をするチームの選択は大切です。このチームには、私が呼ぶところの「チーキーモンキー」を多数含めるべきです。チーキモンキーとは、社内でも怖がることなくどんどん批判を行ったり、反対意見を述べたりできる人たちのこと。シミュレーションをすることの利点は、態度が悪いとか、否定的とか、チームプレイヤーでないなどという烙印を貼られることなく、型にはまった考え方に疑問を呈することができるところにあります。チームのメンバーは、疑問を投げかけることがその役目なのですから。このテクニックは、間違った思い込みを発見し、戦略のギャップを特定するのに特に効果があります。

3. 現実に向き合うことを強要。証拠を求める。

ある私のクライアントは化粧品の原料を製造する会社で、商品の安全性と効果をテストするために、別の会社を設立しました。設立時、幹部は原料製造ビジネスとの利益相反があるように見えるのを避けるため、その会社がまるっきり独立したものであるようにすることが大事であると想定していました。その後何年もこの考え方に疑問を投げかける人はおらず、戦略決定もそれに基づいて行われました。例えば両者間での協同プロジェクトをサービスとして提供したり、原料製造会社の営業スタッフと協力することなど、全て問題外だったのです。

そこで私はその利益相反ということを顧客が気にしているという証拠はあるのですか、と聞いたところ、答えられる人は誰もいませんでした。逆に、調べた結果、テスト会社の売上の5割は原料製造会社の営業スタッフからの紹介によるものということがわかりました。このテスト会社より安価のテストを提供している競合会社もあるというのにです。原料製造会社の関連会社であるということが信頼に繋がっている、と顧客が感じていたのは明らかでした。現在では、このテスト会社は原料製造会社の営業スタッフとの協力方法を検討しています。

要約

慣れた戦略から抜け出すというのは簡単なことではありません。その理由としては、上に挙げた「 雲梯から降りられなくなった子供」、「 得体の知れない思い込み」、「マジノ線」などが考えられます。

この古いやり方を断ち切る3つの方法には以下のものがあります。

1. 競合会社の立場から戦略を作成してみる。

2. ビジネス・シミュレーションを行う。

3. 強い思い込みが正しいものであるという証拠を求める。

もし古い戦略から離脱することが難しい場合は、何が理由なのか考え、書き出して下さい。そして次の戦略作成会議ではどのテクニックが使えるかを考えてみましょう。それも記録して下さい。そうすることで手に負えないサラブレッドにやっとまたがり、新しい牧場に向かって進んでいくことができるようになるかもしれません。